2016年9月25日日曜日

リアルな世界、ビットの世界

我々が暮らすリアルな世界と、コンピュータ上の世界(以下、ビットの世界)の違いは何でしょうか。
人工知能、人工生命は、リアルな知能、リアルな生命と比較してどのような制約を受けるのでしょうか。

以下、リアルな世界とビットの世界の比較をしてみたいと思います。

リアルな世界

・素粒子が構成単位
・空間が無限に広い
・時間、空間は連続している
    #極めて微小なスケールで時間は不連続だという説もあります。
・現象は素粒子単位で並列に進行する
・素粒子同士の相互作用が存在する

ビットの世界

・ビットが構成単位
・空間の広さはメモリ次第
・時間、空間は不連続
・基本的に現象(演算)は直列に進行する。
   #マルチコアのCPUなどを用いることにより幾分かの並列化は可能。
・構成要素同士の相互作用を計算するには膨大なリソースが必要
   #いわゆる多体問題と繋がります。例えば1000の構成要素があると、1000x1000=100万の相互作用が生じることになります。

空間や時間の連続性と有限性、現象の並列性、構成要素の相互作用などに本質的な違いがあるように思えます。
ところが、現代のデジタル物理学の考え方では、宇宙は本質的に情報により記述可能であり、それ故、計算可能であるとしています。
すなわち、リアルの世界も全て0と1で表現できて、現象はデジタルな演算の結果だという物理学の仮説です。
極端なところでは、宇宙自体がデジタルコンピュータだと唱える物理学者もいます。

十分な計算のリソースがあれば、ビットの世界は十分広く、連続的になり、並列性が高くリアルと比較して遜色なくなるのかもしれませんね。

参考:
Wikipedia デジタル物理学
GOD IS THE MACHINE

2016年9月19日月曜日

スノボするカラスとキャンプするタコ 汎用知能の進化経路

プラスチックのフタでスノボを楽しむカラスの様子です。



汎用性の高い知性が霊長類の専売特許でない事が分かります。
鳥類の先祖は恐竜であり、約四億年前にヒトの先祖と分岐したはずです。しかしながら、別の進化経路を辿っても高度な知能の獲得が可能であるということですね。

もっと昔、約6億-5億年前にヒトの先祖と分岐して、同様に汎用性の高い知能を獲得した生き物がいます。タコです。
以下は、二枚貝の貝殻を持ち運びキャンプをするタコの様子です。



タコは無脊椎動物の中では最大の脳を持つようですが、大脳は全体的な指示のみを与え、細部は個々の脚が計算するようです。
脊椎動物と異なる、分散型の脳ですね。
タコの寿命は2年ほどしかありませんが、人並みに寿命があれば海底に文明を築くかもしれませんね。

これまでの2例は神経細胞ベースの知能ですが、神経細胞を介さない知能も存在します。
アリの群れや細菌が発揮する群知能です。
以下は、アリが地下に築いたメガロポリスです。



以上の例から分かるように、汎用性の高い知性は、様々な経路で獲得可能であることが分かります。

僕が今トライしていることは、このような知性が進化により自発的に形成されるような”環境”と”種”を、コンピュータの中に作ることです。

参考:
僕たちの祖先をめぐる15億年の旅
「タコの脚の複雑な動き」はどう制御されているか
神経系の多様性:その起源と進化 (シリーズ 21世紀の動物科学)

2016年9月4日日曜日

備忘録: 直近に読んだ生物学関連の本5冊

1. 植物は<知性>をもっている

ステファノ・マンクーゾ (著), アレッサンドラ・ヴィオラ (著), 久保 耕司 (翻訳)
人間のような中枢神経ベースの知性が、知性の全てではないようです。
知性の一つの形態として、植物のように、各器官が相互にネットワークを形成する、分散型の知性が存在します。
人工知能を考える上で、より広い視点を持たせてくれる本です。


2. 微生物が地球をつくった

ポール・G・フォーコウスキー (著), 松浦俊輔 (翻訳)
微生物は化学物質を用いて互いにコミュニケーションを行い、社会を形作ります。また、我々の生命を支える細胞内のナノマシーンの多くは、微生物と共通のものです。環境に適応して生き残る能力は、知性と言っても差し支えないかと思います。人の脳の知性を真似るのもありだけど、ソフトウェアにはこのご先祖様から学ぶことも多くあるのではないでしょうか。


3. ウィルスは生きている

中屋敷均
これまで生命の進化は種に分岐する木のようなものだと想像していましたが、ウィルスなどを介した遺伝子の横移動が存在することを考えると実は木ではなく網のようなものだと考えを改めました。
海水中のウィルス粒子は1mlあたり一億個、海洋中のウィルスの総量はシロナガスクジラ7500万頭分、全部一列に並べると長さは1000万光年。
ウィルスが常に変化する生命のネットワークの中で果たす役割は巨大なものであり、もちろん我々人間も様々な形で依存しています。
病原性は、ウィルスのほんの一面でしかありません。



4. 生命のからくり

中屋敷均
同じく中屋敷先生の著書。生命と非生命の境界はどこにあるのか、生命の起源は何か。生命の本質が深く考察されている本です。DNAを正確にコピーする「動」の要素とDNAにコピーミスが生じる「静」の要素。そして、突然変異と淘汰による、生存に適した特質の世代に渡る累積。秩序と混沌の境界に、適切な環境と生命の種を置いてやれば、コンピュータ上に生命現象らしきものを発生させることができるかもしれない、そう思わせてくれる本でした。



5. 心はプログラムできるか

有田 隆也
コンピュータ上の人工生命の本です。DNAを化学的に合成することは容易ではありませんが、コンピュータ上でデータをコピーし、意図的に突然変異を加えることは僕でも容易にできます。進化のメカニズムの研究上、とても有用な手法かと想います。シンプルなコードから複雑な機能を自発的に獲得していく仕組みは、これまで数々の研究実績があるようですが、獲得できる機能はごくシンプルなものに限られているようです。心のような複雑な仕組みを進化により自己形成させるためには、どのような生命の”種”をコーディングする必要があるのか、それは人類にとってとても考える価値のあることかと思います。